冬島の町屋

「家の設計をお願いしたいんですけど。」
とっても簡潔明瞭な設計依頼を頂いたのは、竣工から1年と3ヶ月ほど前の冬だったと記憶しています。
今までは ほぼ紹介で仕事をさせてもらっていたのですが、この頃からメールや電話での依頼がちょこちょこと入るようになってきました。
ホームページのお陰でしょうか。更新サボってばかりですが。

施主のご友人はすでに自宅を建てられている方も多く、何人かは建築事務所に依頼して建てられていたので、友人宅を見せてもらったり意見を聞いたりして、自分も新築時には建築事務所に依頼しようと考えていたそうです。
で、とりあえずインターネットで目に止まった僕の所に電話してみたのでしょう。

最初のヒアリングで「広い玄関土間がほしい。」という話が出ました。
もちろん他にも要望は沢山ありましたが、玄関土間が一番特異な要望でした。玄関が狭いのは嫌だから広いほうが良いという施主はいますが、この場合はそういった意味とは全く違っていて、「実用的な意味で広く 多目的に使える土間」という意味だろうと思いました。

で、どこまで広くするか…と悩みましたが、中途半端に広くして結局使い勝手の悪い空間になってしまうのが一番やっては行けないこと。思い切って、多目的に使える広い土間のあるプランを提案しました。
奥の中庭への通り土間にもなっているこの広い空間は、土間部分だけで7.5帖、板間部分を合わせると9.5帖の玄関。いや、玄関というよりもはや居室です。本棚や玩具、なんでも収納できる壁面収納に コート掛け。土間には自転車や灯油缶にスノーダンプ、卓球台まで入ります。(入れませんが)
普通なら隠したくなるような生活感すらも許容してしまうような不思議な包容力のある空間になりました。
また、底冷えしないように土間下に断熱性を確保するのはもちろん、採光や通風性も確保してあります。まさに居室なのです。

もちろん、この特異なプランをこの施主なら使い倒してくれるだろうと思っての提案です。いくら施主からの要望でも、この人には無用の長物になりそうだと感じたら再考を促してたかもしれません。
これから施主家族がこの家とどんなふうに暮らしていくのか、とても楽しみです。

続きを読む


アプローチは三和土風のモルタル仕上げとしました。


木部の材はZiGの色味との相性を考えてヒバ材を選定。2階の戸袋にはルーバー雨戸が入っています。


夜景。濃色の外壁は黄昏時がよく似合います。


笏谷石のステップにヒバ材の玄関引戸。小窓にはアンティークの歪みガラスを入れました。


玄関、格子戸(網戸)にした状態。


中庭から玄関の通り土間を見る。外壁のスパンドレルが船舶照明に照らされて温かみのある陰影をつくりだす。


玄関を入ると最初に見えるのが、通り土間越しに見える中庭。


通り土間から中庭を見る。今はイワダレソウが地面を覆っていて、活き活きとした庭になってます。


通り土間。玄関というより居室という感覚で設計した。そのための通風や断熱性を確保してある。ここでブランコモックにのっていると本当に寝てしまいそうになります。


居間。構造顕しの天井に 薩摩中霧島の左官壁、杉の広幅赤太フローリング。自然光がつくりだす柔らかいグラデーションがきれい。建材物ではこの質感はでない。


居間の幅3.6m木製造作サッシュ。写真では分かりにくいですが、右半分は引戸が開いている状態です。造作サッシュは納まりを熟考することで既成サッシュでは出せない庭との一体感が生まれる。


居間背面にある、薩摩中霧島の大壁。人によっては「壁だけでは寂しい」という人もいるけど、僕はどこか一面は大壁があってほしい。あちこちに窓がある部屋は落ち着かない。


居間から食堂、台所を見る。居間の木製サッシュ部には断熱性の高いハニカムスクリーンを採用しました。


食堂と通り土間は幅3.6mの障子戸で仕切ることができる。


障子戸を開けるとこんな感じ。台所からの眺めです。


食堂から通り土間を見る。収納も大容量。本からオモチャ、多目的に収納できる壁面収納棚やコートハンガー。土間には自転車置いたり冬には灯油缶、なんでも置けます。生活感があってもへっちゃらな包容力のある空間です。


洗面コーナー。台所と水廻り(トイレ・脱衣所)の間にあるので、来客時も使い勝手がよい。


階段は床に合わせて杉材で造りました。ただ手摺はウォールナット積層材。見た目のアクセントの為。じゃなく、しょっちゅう手で触れるところなので、木肌が緻密で肌触りのよい材を選びました。


乾燥室。鴨居にカーテンレールを埋め込んであります。今はガーゼカーテンが吊ってあります。壁は調湿建材のモイス貼り。


2階廊下にあるクローゼット。寝室にはサブクローゼットのみで、メインはこちら。乾燥室と同じくガーゼカーテンで仕切ります。


夜の居間。照明はあまり主張しないよう天井の構造材の中に仕込んだ。光だまりができて奥行き感のある照明計画になった。


食堂。普段は開放的な空間だが、通り土間の障子戸を閉めるとグッと落ちついた空間になる。


主にバーチ合板で作った台所。奥にはパントリーと勝手口。収納力も大きく使い勝手の良い台所になった。


通り土間の障子戸。両面から障子を貼る太鼓貼りという貼り方で、普通の障子戸より断熱性も高い。