田所の家

田所の家
田所の家は、独立して初めて設計監理させてもらった思い入れのある住宅です。僕がまだ某建築事務所で勤めていた時、「出村くん、独立してウチ 設計してもらえんか?」と、施主から唐突に話を頂きました。それまで、住宅を設計したいという思いはあったが、店舗や施設の設計経験が多く、住宅設計が乏しかったので何故自分に?とちょっと驚きました。後から聞いたら「感性が合うと思ったから」だそう。当時は怖くて聞けませんでした。でも、そんな自分にチャンスをくれた、無謀…もとい、器の大きな施主の期待に絶対なんとしても全力で答えなければと大奮起しました。

突然の話だったので独立の準備も何もしてなくて、普通だったら躊躇するのかもしれませんが、その時はもう田所の家を竣工させることで頭がいっぱいでバタバタと独立の手続きをしたのを覚えています。
田所の家は玄関から全て別々の完全分離型二世帯住宅です。敷地も複雑な形状で、道路からの奥行きは長く、間口もそれなりにあるのですが途中で細くクビレていて最細部の間口は5m強で、まるで“ひょうたん”のような敷地形状でした。何度も打合せをしていくうちに、どうしてもクビレ部分を跨いで建物を計画しなければならないと分かってきました。それで、道路側の土地を親世帯の平屋。道路から離れた土地を小世帯2階建とし、2棟の間のクビレ部分を 土間や庭で緩やかに繋ぐという案に煮詰まってきました。
あと、家全体のイメージというか、雰囲気で最初に要望があったのは「いかにも建築家が設計した感じにはしたくない。普通でいい。」というものでした。(でも本当に普通にしたら怒られるんだろうなぁ…とか思いつつ) 僕自身もあまり奇抜な物は好まないし、「どうだ!」的なカッコよすぎる建物は住宅にはどうかな?と思っていたので、実はすんなり入っていけました。田所の家は割と地味です。道路側からみても奥まっているし、正面はこぢんまりした平屋なので目立ちません。でも丁寧に造りました。3尺(90cm)の軒先は風雨や日射から建物を守り 他の要素と相まって程良い風格を醸し出し、心配りした細部の納まりや素材は落着きと心地の良い緊張感を生み、両世帯の動線や距離感をしっかり考えられた間取りは使いやすい。
田所の家は地味な家だと思います。 でも美しい家だと思います。

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正面は圧迫感を出さないよう小さな平屋に見えるように配慮。緩勾配の屋根と左右の腰壁が落ち着いた雰囲気を出す。


親世帯の玄関と子世帯へのアプローチが程よく見えるよう腰壁の高さを調整している。腰壁の左上、コールテン鋼製の表札。


右側の腰壁の奥に親世帯玄関、子世帯アプローチ。左側の壁の奥に自転車置場がある。


子世帯へのアプローチ。左側には親世帯の水周りが集中しているが換気フードが一切見えない。細かいことだが大切な配慮である。


玄関。縦スリット窓や地窓から やわらかな光がこぼれる。


玄関ホール。ヒュウガミズキが影を落としている。春には黄色い可愛らしい花が咲き、秋には黄葉する。こういうちょっとした事でも季節を感じることができる。


LDK。リビング、キッチン、ダイニング、そして収納棚奥のスタディコーナー、それぞれが程よい距離感と独立性を保っている。


ダイニングから庭を見る。


幅1.7m×高さ2.2mのフルオープンの大窓から気持ちの良い風が入ってくる。


施主セレクト ルイス・ポールセンの照明。実物見るまでナメてました。塗装がハイグレードでグラデーションがすごく綺麗。



スタディコーナー。スタディカウンターは2間幅(約3.6m)のタモ無垢材。高さ1.9mの本棚が、ゆるやかにリビングとスタディーコーナーを分けている。横長の窓からはモミジが見える。紅葉が楽しみです。


床は岩手県産の栗の木を使用。栗の木でこれだけの幅と長さのものは ほとんど流通していない。


寝室。5m幅の3連障子戸が落着いた雰囲気を出している。障子戸は引込んで全開放にできる。


座敷は玄関土間からも直接上がれるので、両世帯の客間として使用できる。


両世帯の繋ぎになっている通り土間。松煙土間の黒に庭の緑が鮮やかに映えている。


親世帯の廊下。障子ごしにリビングからのやわらかい光がこぼれる。


親世帯リビングから庭を見る。庭は両世帯共用だが、お互いのリビングは見えないように配置されている。